『すぐれた絵本を』
絵本が魔法の力を持つには、なにより、質の高いものであることが必要です。絵本であればなんでもよいというわけでは決してありません。(でも、街には“良いもののよそおいをしたもの”があふれていますね。)
幼年期の子どもは、たいへんな勢いで成長しています。その成長の時に、できるだけ質の高い、すぐれたものを伝えたい。そのようなものこそが、子どもを豊かに育てる力に恵まれているからです。
このような恵みを持つ絵本が、ごく少ないのですが、確かにあります。けれど、そういう絵本と巡り会うには、そのための眼力が必要です。私たちは、専門的な立場でそのお手伝いを続けてきました。
ではすぐれた絵本とはどんな絵本のことでしょうか。そして、それは、子どもに、どんな良いものをもたらすのでしょうか。
絵本の三つの要素:�絵、�言葉、�物語 に沿って、簡単に述べてみます。
1.
美しいものへの感性
子どもは絵本を読んでもらいながら、いっしんに絵を見ています。絵本の絵は、子どもに見つめられるに足る美術であってほしい。そうすることで、子どもに、美しいものへの感性を育てたいと思います。子どもに媚びた漫画的な絵や、いわゆる“かわいい絵”が絵本の絵にふさわしいのではありません。
こうして、私たち童話館は、絵本の絵を美術として展覧する場として、長崎市内に「折りの丘絵本美術館」を運営しています。
2.
言葉を育む
すぐれた絵本は、洗練された美しい日本語によってつづられます。子どもは、未知の美しい日本語を、親の声で読まれる物語りの楽しさにのせて、見につけていくのです。絵本を読んでもらっている子どもの言葉の発達が早く、表現も豊かなのは、そのためです。
言葉は、考え、思い、学び、伝え合うための手だてです。言葉が豊かになることは、考えや思いが豊かになることです。それは、人が人らしく生き、社会のなかで人とかかわりを持って暮らしていくうえで、どんなにか大切なことでしよう。
これほど大切な言葉の力は、乳幼児期の、親から子への語りかけや、絵本を読んであげるという、温かく、人間的なふれ合いをとおして、より豊かに得られていくのです。
3.
子どもの真の姿を描く
絵本の�絵と�言葉によってつづられるのは、�物語りです。その物語りが、真に子どもの心の姿と響き合っているかどうかが、すぐれた絵本なのか、子どもに支持されるかの、分かれめです。
でも、私たち大人は、そのような子どもの心から遠く離れてしまいました。そこに、子どものための絵本を選ぶむずかしさがあります。そのため、“絵本作家”と自称する人たちの、ただの思いつきや絵日記に過ぎないようなものを、絵本だとかんちがいしてしまうのですね。
それに加えて、たとえば、三才と五才の心の成長には、ずいぶんと開きがあります。そうすると、すぐれた絵本であっても、その子の心の成長に応じていないと、ミスマッチということになりかねません。
私たちは、今を生きる子どもの、深いところの心に寄り添い、よりよく生きようとする子どもの心を励ましていけるような、そんな絵本を手渡していきたいと願っています。
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